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東京地方裁判所 平成4年(ヲ)1242号 決定 1992年11月11日

当事者 別紙当事者目録記載のとおり

主文

1  引渡命令の執行までの間、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)に対する相手方らの占有を解いて、東京地方裁判所執行官に保管を命じる。

2  執行官は、その保管に係ることを公示するため、適当な方法をとらなければならない。

理由

1本件は、買受人のための保全処分として、主文記載の命令を求める事件である。

2記録によれば、次の事実が一応認められる。

(1)  申立人は、平成四年七月一日、本件建物につき、売却許可決定を得て、差引納付の申出をした。当裁判所は、平成四年一〇月九日、配当期日を平成四年一一月一一日と指定した。同期日は、配当異議の申出がなされることなく、終了した。

(2)  相手方A(以下「相手方A」という。)は、本件建物のもと所有者である。

(3)  平成三年七月、執行官は、現況調査のため、本件建物に臨場した。その際、相手方C(以下「相手方C」という。)は、本件建物は自己が宿泊所として使用し、同人の長女の婚約者である相手方Bが住居として使用していると陳述した。

相手方Cらは、本件建物についての占有権原について、「本件建物の所有者である相手方Aから、甲が、賃料一平方メートル当たり一〇〇円、敷金なし、譲渡転貸ができるとの約定で賃借りし、甲から相手方Cが、賃料月一五万円、敷金一五〇万円で転借したものである。」と主張した。

本件建物には、平成三年四月二日受付で、甲を権利者とする賃借権設定仮登記がなされている。その登記の内容は、原因平成三年三月一三日設定、借賃一か月一平方メートル当たり一〇〇円、存続期間三年、特約譲渡、転貸ができる、というものである。

(4)  甲は、平成四年一月一五日死亡した。

乙(以下「乙」という。)は、平成四年二月二六日、当裁判所に、次の内容の建物賃貸借契約書二通を郵送してきた。すなわち、乙は、Aから、平成三年三月三〇日、本件建物を賃借し(賃料一か月一九万七五〇〇円、敷金一億三五〇〇万円)、更に、同日、これを乙が甲に転貸した(賃料は同額、敷金は三〇〇〇万円)との契約内容であった。

平成四年五月一五日、Aと乙は、上記相手方Aと乙間の上記賃貸借契約の約定を内容とする公正証書を作成した。

(5)  乙は、平成四年五月二二日、申立人に対し、「小生等は貴殿が債権者として競売に差し出したる別紙物件を賃借している者です。既に所有者賃貸人は力が弱っている為敷金が返還される見込みは全くない。全く困ったものである。そこでこの際貴殿に於かれては、当該物件を出来得る限り落札して頂き、そして債務者に成り代わって直ちに小生等に敷金を返還して貰い度い。」との書面を、上記公正証書とともに郵送し、申立人が本件建物を買い受けた場合には、敷金名下に一億三五〇〇万円を要求する意思を明らかにした。

(6)  平成四年六月一六日、相手方Cの代理人弁護士が、甲の遺言書を当裁判所に提出した。同遺言書の内容は、甲は、相手方Cに、本件建物を含む、数十室のマンションの賃借権を譲渡するというものであった。

(7)  その後、申立人が調査したところ、本件建物の玄関に相手方Bの表示のほかに、相手方株式会社D(以下「相手方D」という。)、相手方E有限会社(以下「相手方E」という。)の表示がなされていた。相手方Dの代表者である丙については、静岡地裁沼津支部の競売事件において、甲及び相手方Cと密接な関係のあることを窺わせる書面が裁判所に提出されている。相手方Eは、かって乙が代表取締役であり、現在も乙が取締役をしている会社であり、当庁の別件の競売事件(相手方Aが代表者である株式会社の所有する土地建物の競売事件)において、執行妨害を目的として、競売対象建物を占有しているとの外観を作出している。

(8)  相手方Bは、相手方Cの長女の夫であり、かつ相手方Cが代表者をしている申立外東京○○○株式会社の取締役をしている。

相手方Fは、甲のもと妻であり、相手方Gは甲の長女であるが、甲死亡後、執行妨害目的で、本件建物に居住している可能性がある。

3上記認定の事実によれば、本件相手方らは、本件建物の引渡を困難にする行為をするおそれがあるというべきである。すなわち、相手方A、相手方C、相手方B、相手方D及び相手方Eは、甲及び乙とともに、本件以外にも、執行妨害を目的とする行為を行っているグループである。そして、本件においても、執行妨害を目的として、当初、相手方Cや相手方Bらが、本件建物のもと所有者である相手方A及び甲と意を通じて、賃借権を有すると称して、本件建物を占有し、更に、甲が死亡した後には、乙が賃借権(敷金一億三五〇〇万円)を有すると主張し、これを公正証書化したうえ、申立人にこれを送付し、申立人が本件建物の買受人となった場合には、同敷金の返還名下に不当な利益を得ようとしていたものであるところ、本年に至り、相手方Dや相手方Eらが、本件建物を占有しているとの表示をするに至ったものであり、このような状況に鑑みれば、本件について、相手方らは、引渡命令の執行までの間に、本件建物の占有者を転々と変えることにより引渡命令の執行を困難にし、あるいは、買受人の任意の明渡の請求(引渡命令の発令前及び発令後)や引渡命令の執行に際しての執行官の任意の明渡の催告に対して、正当な理由なくこれに応じず、またはこれに対して妨害行為をするなど、事実上本件建物の引渡を困難にするおそれがあるといえる。

なお、申立人は売却代金につき差引納付の申出をし、当裁判所はこれを認めて、代金納付期限の指定をすることなく、配当期日の指定をしたものであるが、この場合、執行裁判所は、買受人たる本件申立人に対し、代金を納付させることなく、保全処分(ないし担保提供命令)を発令することができると解すべきである。なぜなら、民事執行法七七条が、買受人の代金納付を保全処分の発令要件とした趣旨は、代金を納付する意思のない競売ブローカー等が、本条の保全処分(特に執行官保管命令)を得て、所有者等に明渡しや買い戻しを強要し、不当な金銭を得るといった濫用を防止することにあるが、差引納付が認められる買受人は、あらかじめ配当財団を確保しなくとも、配当実施時に差引額が納付される蓋然性が高い者であり、このような濫用のおそれはないといってよいからである。そして、本件においては、配当異議の申出がなされることなく、配当手続が終了した。

4よって、本件申立は理由があるからこれを認容し、申立人に相手方らそれぞれに対して金五万円の担保を立てさせたうえ、民事執行法七七条一項(同法一八八条)に基づき、主文のとおり決定する。

(裁判官松丸伸一郎)

別紙当事者目録

申立人 ○○不動産ローン保証株式会社

代表者代表取締役 ○石○夫

上記代理人弁護士 井口寛二

同 土屋徳美

相手方 A

相手方 B

相手方 C

相手方 株式会社D

代表者代表取締役 ○肥○

相手方 E有限会社

代表者代表取締役 ○田○三

相手方 F

相手方 G

別紙物件目録

1、一棟の建物の表示

所在 杉並区浜田山○丁目○番地○

建物の番号 ○○浜田山

専有部分の建物の表示

家屋番号 浜田山○丁目○番○

建物の番号 一〇五

種類 居宅

構造 鉄筋コンクリート造一階建

床面積 一階部分

158.95平方メートル

敷地権の表示

土地の符号 1

所在及び地番 杉並区浜田山○丁目○番○

地目 宅地

地積 5542.32平方メートル

敷地権の種類 所有権

敷地権の割合 一〇〇〇〇〇分の三九四三

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